2007年05月31日

加藤典洋の「メタボラ」評に思う

 2007.5.30の朝日新聞朝刊の加藤典洋による文芸時評に「メタボラ」が取り上げられていた。「困った作」「ただの野蛮な新聞小説としてズミズミ上等」と評していたが、正面から論じたようには見えない。やはりこの作品は評価が難しいと思う。なぜなら時代を的確に切り取ってみせた作家の意欲と小説としての完成度との間に乖離があるからである。この小説は「失われた世代」を描いた風俗小説として後々評価が高まっていくと思われる。ただ描いた若者に対する作家の態度が桐野夏生にしては生ぬるいものになっていてそれが作品の中心点を消失させている。「光源」の若い映画監督の理想と野望を砕いてみせた冷徹な人間洞察眼がこの作品にはない。技法的にも、語り手としてユウタだけでなくアキンツをも起用した点については思慮が足りなかったのではないかと思われる。語り手の切り替えによってこの作品の主題が色めいたり輪郭が鮮やかになったとは思えない。逆にぼやかしてしまったのではないか。とどのつまり桐野夏生はまだ若者の格差問題について核心的な見解を得ていないのだろう。「メタボラ」のまとまりの悪さはそれゆえに描かれた問題の深刻さを物語っている。(2007.5.31)

posted by 堀内悟 at 00:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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